一途な溺愛プリンスはベールアップを譲れない

追跡

「まったく、あなたという人は……!」

 今まで史上最高に不機嫌な顔で、石神さんがアクセルを踏む。

 今日だけで何度も乗り降りをした、青みがかった黒のSUV。

 助手席のドアは……、自分で開けた。


 宝来寺さんはいなくなったんじゃない。

 “攫われた”のだ。

 十中八九、麻生流司に。


 彼の独占欲が異常に強いことは、私が一番よく知っている。

 今日、宝来寺さんは、彼の目の前で私を抱き締め、連れ去った。

 それだけで、麻生の怒りを買うには十分だ。

 現に、宝来寺さんの所属事務所には不審なメールが届き、私の自宅でも、宝来寺さんに関するものだけが無残な姿にされている。


 私のせいだ。

 私が、自分の力で何とかしなかったせいで、宝来寺さんを巻き込んでしまった。

 石神さんにも、こんなに心配をかけて、大変な思いをさせている。

 どうしよう。

 どうしよう。

 どうしよう……!


「萩元さん、大丈夫です。どうか落ち着いてください」

 心なしか運転の荒い石神さんが、いつもの冷静な口調で言う。


「GPSで大体の居所はつかめています。相手に気づかれて、捨てられているわけでなければ……ですが」


 こんなこともあろうかと、というのは本当に起こるものなのか。

 石神さんと宝来寺さんは、何かあった時のため、お互いの居場所をGPSで共有できるようにしていたらしい。

 スマホのアプリと、ネックレス型の小型GPS。二重で。


「まずはうちのチームが乗り込みますが、神奈川県警にも話をつけてあります。大丈夫、大丈夫です」

 最後の方は、自分自身に言い聞かせているようだった。


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