一途な溺愛プリンスはベールアップを譲れない
「宝来寺さん、入られまーす!」


 スタッフの声に、心臓がどきりと飛び跳ねた。

 来た。来る。

 私の王子様が。


 年甲斐もないことを、と素早く自分にツッコミながらも、胸の高鳴りを抑えられない。

 程なくしてスタジオに入ってきた“彼”は、



「……はよーございまーす」



「(想像以上に気だるげだっ……!!!)」


 というか、やる気ない?
 眠い?
 もしかして機嫌悪い?

 絶賛放送中の歯磨き粉や洗濯用洗剤のCMの、白がとてつもなく似合う好青年な、“爽やか・キラキラ・宝来寺 伶”を期待していただけに、あっけにとられる。

 バラエティ番組や雑誌のインタビューで見る、人懐っこく、健気で、謙虚な姿ともまた違う。

 “素顔のカレ”とは、一体なんだったのだ。

 なんというか、イケメンだから
 『物憂げ』とか
 『アンニュイ』とか
 『ミステリアス』って言葉で良いように表現してもらえるけれど、
 顔面偏差値75なければ叱られて追い出されるレベルの覇気のなさ。

 あくびを噛み殺すことなく楽屋へと案内されていった彼を見送ると、塚本さんが、

「あちゃー、今日は機嫌悪いかな~」

 と頭を掻いた。

「え?」と顔に書いてあったのだろうか、私の顔を見るなり言い訳のように説明する。
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