一途な溺愛プリンスはベールアップを譲れない
第2章 2つのトリガー

暗雲

 自分のことが何ひとつ思い出せないと気が付いたのは、中学3年の5月のことだった。


 自分が何者なのか。

 何をして過ごしてきたのか。

 何が好きなのか。

 何もわからない。


 ぼんやりとした毎日の中で、ようやくひとつわかったことがあった。

 それは、カメラを異常なまでに怖がること。


 レンズを向けられると怯え、震えが止まらなくなり、意識を失う。

 意識を失った後のことは、覚えていない。

 それは自分を守る行為なのだと、医者に教えられた。

 何か思い出したくないことが私にはあって、思い出して再び傷つかないように、自分を守っているのだと。



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