一途な溺愛プリンスはベールアップを譲れない

知らない自分

「……またおんなじ夢」


 これは私の妄想なんだろうか。

 それとも本当にあった過去なんだろうか。


 わからなくなるくらい繰り返し見た夢。

 結婚式の、夢。


 新婦の美しさ、誰も侵すことのできない神聖な時間に衝撃を受けて、私はブライダルカメラマンになった。

 結婚式の記録を写真に残す仕事だ。


 多くの人にとって人生の晴れ舞台と言える“結婚式”。

 新婦の入場、誓いの言葉、指輪の交換、誓いのキス……

 式の進行を妨げないようにしながら、最高の瞬間をおさめていく。

 主役の新郎新婦はもちろん、参列者の表情も逃さない。

 幸せな瞬間を切り取り、形に残せるこの仕事が、私は大好きだった。



「写真は嘘をつかない、かぁ~」


 誰が言った言葉だっただろうか。

 ベッドのサイドテーブルに置きっぱなしにしていた写真を手にして、ため息をつく。
 

 写真があれば、幸せな記憶も、妄想か本当にあった過去かなんて悩まなくて済む。

 悩まなくて済むはずだったのだが、私は悩んでいた。





< 4 / 122 >

この作品をシェア

pagetop