赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「あなたに与えられた力は大きく、時に苦しみを連れてくるのかもしれません。ですが、多くの人間を幸せにできる素晴らしいものです」
たいていの人間は、どうやっても地位や権力を手にすることができない。
時代も変わってきてはいるものの、生まれや血筋がその人の価値を決めてしまうことがほとんどだ。
逆に貴族や王族が持ちたくもない力のために、自由に生きられないことも少なからずあるだろう。
でも、出生や運命を嘆いても未来は変わらないのだ。
「だが、誰もが僕のことを王の器ではないと噂している」
手を握られたまま項垂れるアルファスに、にっこりと笑って見せる。
「でしたら、強くなってあっと驚かせてしまえばいいのです」
「……なら、シェリーが僕のカヴァネスになってくれよ」
「えっ、私がですか?」
そう返されるとは、予測していなかった。
目を瞬かせながら、不安げなアルファスの顔を見つめ返していると――。
「これは頼む手間が省けたな」
いつの間にそばにやってきたのか、スヴェンが肩に手を乗せてきた。
「アルファス様は教育係の靴にヤモリやら、馬の糞やらを入れるといった悪戯をやらかしていてな。辞めた教育係の数は星の数ほどいる」
「それは……すごいですね」
そこまでされたら、さすがに逃げ出すだろう。
苦笑いを浮かべていると、スヴェンは意味深に見つめてくる。
それだけで金縛りにあったかのように、体が動かなくなった。彼の瞳には人を従わせる不思議な魔力でも宿っているのだろうか。
「さっき町中でお前にカヴァネスかと尋ねたとき、アルファス様のカヴァネスになってくれないかと頼むつもりだった」
「で、ですが……私には他にも生徒がおります」
「授業がないときで、かまわない。引き受けてはくれないか」
頼みを聞いてあげたいのは山々だけれど、自分に国王のカヴァネスになれるだけの技量があるのか不安になる。
というのも、自分に力がなければ強くなりたいというアルファスに迷惑がかかるだけだからだ。
もっと国の政治やしきたりに詳しい者がいるだろう。やはり無責任に引き受けるわけにはいかないと、アルファスに視線を向けた。
そこにあったのは、懇願するような表情。彼の心細さが垣間見えて、すぐに考えを改める。彼が望んでくれるうちは、応えるのがカヴァネスの役目だと気づいたからだ。
気持ちが固まったシェリーは、ふたりに礼儀正しくお辞儀をする。
「未熟ながら、力添えさせていただきたいと思います」
シェリーが体を起こすと、アルファスが勢いよく腰に抱き着いてくる。