赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う


「これ……肌身離さず持っていてくれたのですね」


 銃弾を受け止めた首飾りを見つめていると、視界が涙でグニャリと歪む。

(スヴェンは様がご無事でよかった。お父様、私の愛する人を守ってくださってありがとうございます)


 感謝を込めて首飾りに口づけると、シェリーはたまらずスヴェンの首に抱き着いた。


「おっと、泣かせてすまなかったな」


 シェリーの体を片手で受け止め、あやすように頭を撫でてくる。それに涙腺は崩壊して、スヴェンの名前を呼びながら子供のように泣きじゃくった。


「また、おいてかれてしまったのかとっ」

「気づいていたら体が勝手に動いていたのだ。お前をおいて死ぬつもりは毛頭なかった。この首飾りが純鉄でできていたおかげで命拾いしたな」


 撃たれたというのに平然としている彼は、やはり人並み外れた肉体の持ち主だとシェリーは苦笑いする。


「ぎこちないが、ようやく笑ったな」


 目を細めて笑うスヴェンに「え?」と首を傾げる。すると頭に乗っていたはずの手は頬に当てられ、そのまま涙を拭われた。


「泣いているお前も美しくはあるが、胸が痛む。シェリーにはずっと、幸せに笑っていてほしいと思っている」

「スヴェン様は……本当にお優しいのですね」

「シェリーにだけだ」


 スヴェンの唇が慈しむように瞼に押し付けられると、苦しかったはずのシェリーの胸には温もりが広がっていった。


「約束……今、あなたに甘えてもいいでしょうか」

「なんだ? なんでも聞こう」


 スヴェンは少しだけ首を傾げて、答えを待ってくれているようだった。シェリーは思い切って、大胆なお願いをする。


「ここに……口づけてはくれませんか?」


 彼の手を自分の唇にもっていくと、顔が熱くなる。受け入れてほしいとガーネットの瞳をじっと見つめれば、スヴェンに顎を掬われた。


 吐息が唇に触れた瞬間、「喜んで」という囁きのあとに口づけられる。彼の熱に触れて、ちゃんとここにいると安心したかったのかもしれない。


< 128 / 135 >

この作品をシェア

pagetop