赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う


「どうされたのですか?」

「シェリーさん、お礼に今日の前夜祭に参加したらどうかしら?」


 突拍子もない提案に「えっ」と失礼極まりない声をあげてしまう。だが前王妃は気にした様子もなく、控えている執事を呼びつけてドレスの手配などをし始めた。


 その姿は無邪気な女の子のように楽しげで、シェリーは断ることができずに見守ることしかできない。


 少ししてドレスや装飾品などが前王妃の部屋に運び込まれ、シェリーは着せ替え人形のように何着もドレスを試着させられる。


 数十着目には、さすがのシェリーも疲労感を隠せずにひっそりと溜息をついた。

 しばらくして前王妃の満足のいくドレスが決まると、元のカヴァネスの服に着替えることを許され、安堵する。


 付け襟を整えながらベッドにいくつも並べられたドレスを苦笑いで見つめているとアリシア前王妃はひと段落ついたのか、満足そうにシェリーを振り返った。


「じゃあ、ドレスは夕方に部屋に送るわね。今日は城内の催し物だから、私も出るの。シェリーさんの着飾った姿、楽しみにしているわ」

「前王妃様……ありがとうございます」


 カヴァネスの自分が前夜祭という名の舞踏会に参加するだなんて恐れ多いけれど、せっかくのお誘いだ。

さりげなくアルファスのダンスチェックをしようと考えていると、ナイトテーブルの上にある花瓶に薔薇が生けられていることに気づく。


「素敵な薔薇ですね」


 そう言って、ベッドサイドのナイトテーブルに近づく。花瓶の中には三本の黄色い薔薇の中に一本の赤い薔薇が混じっている。


(でも、これって……)


 シェリーは薔薇の組み合わせの意味をい思い出して、眉間にしわを寄せた。

四本の薔薇は〝死ぬまで愛の気持ちは変わらない〟、黄色い薔薇の中に赤い薔薇があるのは〝あなたがどんなに不誠実でも愛してる〟という意味をもつからだ。


 どちらも熱烈に相手を思ってはいるが、その裏には相手が他の誰かと結ばれてしまったことへの妬みや憎しみも含んでいる。


 贈り物としては最適ではないけれど、こういう意味を知らない人は五万といるので考えすぎかもしれない。

そう自分に言い聞かせたが、次の前王妃の言葉でさらに不信感が増す。


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