赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「昨日、部屋の前に置かれていたのよ。綺麗だったから捨てちゃうのもかわいそうだし、花瓶に生けることにしたの」
「部屋の前に……」
シェリーにも心当たりがあった。この城にやってきたばかりの頃の話だ。
借りた部屋の前に一輪の青薔薇が落ちていた。あれは前王妃の部屋の前に薔薇を置いた誰かと同一人物なのではないか。
そんな思考を巡らせていると「シェリーさん?」とアリシア前王妃が不思議そうに顔を覗き込んでくる。
「あ、ぼーっとして申し訳ありません。大丈夫ですから」
言いようのない胸騒ぎを胸に抱えながら、シェリーは笑顔を繕った。
散らばったパズルのピースが少しずつ繋がっていくような感覚に、その先にたどり着く答えが大切な人たちを傷つけるようなものではないことを祈りながら、シェリーは前王妃の部屋を後にした。
「シェリー、母様と朝食をとってたんだろう? 僕も呼んでくれたらよかったのに」
朝食後、アルファスの部屋で今日の前夜祭の流れをおさらいしているときだった。
ブラウンの気品あるマカボニーのテーブルとお揃いの椅子に座るアルファスが、ムッとした表情で側に立っているシェリーの服の裾を引っ張る。
いつもなら一緒にグレート・ホールで食事をとっているので、寂しい思いをさせてしまったのかもしれない。
「申し訳ありません、アルファス様。また機会がありましたら、皆で一緒に食事をしましょう」
拗ねてしまうアルファスの肩に手を乗せて謝れば、眉間に寄っていた深いしわがほぐれていく。口元がニンマリと笑みを象ると「仕方ないなぁ」と嬉しそうに言った。
素直に喜べない彼は不器用だが、そんなところも可愛らしいなとシェリーは顔をほころばせる。
「アルファス様、ダンスは上手なだけではいけません。さて、なにが一番大切なのか、覚えていらっしゃいますか?」
「女性への気遣い、だろ?」
「そうです。アルファス様と踊った女性が笑顔になれるように、優しくリードしてさしあげてくださいね」
「はーい」
ここに来たばかりのときに比べて、彼は素直に話を聞いてくれるようになった。それだけ信頼されているのだと思うと、カヴァネスとしても個人としてもうれしい。
「さぁ次は、今日来られる貴族の方への挨拶ですが――」
日々に充実感を感じながら、アルファスが社交界で多くの人に国王として愛されるよう、外が暮れ始めるまで念入りに確認をしたのだった。