赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「離してスヴェンっ」
「なりません!」
暴れる前王妃を押さえながら、スヴェンがこちらを振り返ろうとしたとき。
「新たなるアルオスフィアの創造を!」
意味不明な言葉を高らかに叫びながら、ルゴーンは床に突き刺さっていたナイフを抜いてアルファスへと振り上げた。
「やめて!」
シェリーは無我夢中でアルファスの前に飛び出すと、その小さな体を抱き込む。
すぐに背中に鈍い痛みが走り、唇の隙間から「うっ」呻き声が漏れた。
ナイフの切っ先はリボンを掠ったのか、結っていたはずの薄桃色の髪が解けてふわりと舞い上がる。
「シェリー?」
腕の中にいたアルファスは、怯えるようにこちらを見上げてくる。その目があまりにも不安そうで、シェリーは安心させるように無理やり笑みを浮かべた。
「大丈夫……です、アルファス様。あなたはきっと、民からも……城の皆からも、愛される……王様、になりま、す」
荒い呼吸で時々痛みに顔を顰めながら、言葉を紡いでいく。
アルファスはシェリーの背中に手を回すと、ナイフが刺さっていた場所に触れて顔面を蒼白させた。
恐る恐る両手を見て、そこにべっとりと付着する赤い血に息を詰まらせる。
「これ、これ……なんだよっ」
シェリーの傷口からはナイフが刺さった後に無理やり引き抜かれたせいか、とめどなく血が流れている。
「なんで、僕のことを庇ったんだよ!」
「自分の命より、も……優先したいほど、大切な存在……だから、ですよ」
ポロポロと涙を流しながら、自分の名を呼ぶ彼の頭を撫でてやる。
でもアルファスは血の気の失せていくシェリーの顔を見つめて、ただ呆然とするばかりだった。
「その男をひっ捕らえよ!」
大公の号令で、騎士たちが動き出す。視界の端にルゴーンが捕らえられるのが見えてホッとした途端、急激な眠気に襲われた。