赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う


「なにが目的でこのようなことをする」


 剣先を道化師の男に向けたままスヴェンが尋ねれば、道化師の男は馬鹿にするようにケラケラと不気味な笑いを大聖堂に響かせた。


 その狂気にあてられてか、参加者たちは震えながら固まっており、騎士たちもスヴェンの指示を待っていつでも男を捕らえられるように待機している。


 いっそう空気が張り詰める中、道化師の男が聖帽に手をかけたとき、「やめんか!」と大公殿下の切羽詰まった声が聞こえた。


 それでも問答無用で脱ぎ捨てられた聖帽の下に隠れていたのは、左頬に大きな傷のある顔。緑がかった短い黒髪をかき上げ、吊り上がった目をさらに細めてニタリと笑う。


「この顔を見るのは久しぶりかな、スヴェン・セントファイフ」

「貴様はアルガノフ・ルゴーンか!」


 スヴェンは目を剥くほどかっ開き、驚愕の表情を浮かべている。


(ルゴーンって前騎士公爵の名よね? ということはスヴェン様が打ち取ったという前王を毒殺した首謀者!)


 狂気的な笑みを浮かべているルゴーンに、シェリーは身震いする。


「前王だけでは飽き足らず、アルファス様まで手にかけるつもりか!」

「スヴェン・セントファイフ、それは王ではない。王座に真にふさわしい者へ返すべきだ」

「アルファス様こそ、この国を導くにふさわしい王だ」


 揺るぎなくはっきりと言い切ったスヴェンに、アルファスは泣きそうな顔をする。

 ふたりはよくぶつかっていたが、剣術の稽古を頼むのも、張り合おうとするのも、スヴェンだった。それだけで、アルファスが一番の信頼を置いていることがわかる。

 スヴェンとルゴーンが睨み合う中、前王妃が叫ぶ。 


「やめてくださいっ、誰かアルファスを助けて!」

「前に出てはなりません!」


 目尻に涙を溜めてアルファスの元へ駆け寄ろうとする前王妃にスヴェンが駆け寄り、肩を掴んで止めさせる。

 その姿を見て、スヴェンは前王妃のことが大切なのだと気づいた。自分に好きだと言っておきながら、本当は前王妃を想っていたのではないだろうか。

前に部屋の前で抱き合っているところも見ていたので、自分に告白をしたのは身分違いの恋を忘れたかったからではないかと勘繰ってしまう。 


< 64 / 135 >

この作品をシェア

pagetop