赤薔薇の騎士公爵は、孤独なカヴァネスに愛を誓う
「明日もどこかへ出かけられるんですか?」
今日も朝食を済ませてすぐに邸を出て行ってしまったので、ひとりで無茶をしていないかが気が気でなかった。
ただでさえ指名手配されている彼が城の人間に捕えられれば、ただではすまないだろう。
毒殺の容疑までかけられているので、貴族であっても最も苦痛を伴う絞首刑に処される可能性もある。
敵はこの国で事実上の最高権力を持つ大公だ。いくらなんでもひとりで相手にするには分が悪い。
なんとか他の公爵と力を合わせられればいいのだが、今は連絡手段も絶たれてしまっている。
自分にもできることがあればいいのだけれど、カヴァネスごときにできることなど、たかが知れている。
愛する人のためになにかしたいのに、無力な自分を情けなく思っていた。
「あぁ実は明日、この邸に来客がある。俺たちにとっては唯一の希望と言っても過言ではない。これから忙しくなるだろうから、今日はゆっくり休もう」
スヴェンはそれっきり誰が来るのか、忙しくなるとはどういう意味なのか、なにも話してはくれなかった。
不安はあったが彼にあやすように背を撫でられると、お酒のせいもあって強い眠気に襲われる。
その手の心地よさに抗えず、瞼を閉じて意識を手放す間際に「おやすみ、シェリー」という声が聞こえたのだが、返事をすることができずに眠ってしまった。