言い訳~blanc noir~
6月10日。
前日の雨がまるで嘘のような晴れ渡った空は雲一つない青空が広がっていた。
「沙織、誕生日おめでとう」
仏壇にチーズケーキとアールグレイを置き手を併せた。花瓶に活けた真っ白なカサブランカが沙織の遺影を飾り、背景が仏壇でなければ本当に愛らしい花嫁のようだ。
のそのそとクロが沙織の部屋に入って来ると和樹の横に前足を揃え腰を落とす。
「クロも祝いに来たのか? 沙織、クロが誕生日おめでとうって言ってるよ」
しかしクロは何を思ったのか突然後ろ足で頭を掻き始めた。
「相変わらずクロはマイペースだな」
和樹が苦笑いする。
「沙織、そろそろ行こうか」
今日だけは何も考えず、沙織の事だけを考え、そして笑っていようと決めていた。
沙織の誕生日である6月10日。
本当であれば今日沙織と入籍する予定だった。
先日夏海の両親に挨拶に行き、7月7日に入籍する事になった。職場にはまだ話していないが夏海は、もうあの日以来、出勤しておらず辞表を提出し6月末をもって退職となる。
体調不良という事になっているがあまりにも突然の事だったため銀行内はあらゆる噂が飛び交っていた。
しかしそれももう落ち着き和樹が知る限り夏海の話題を口にする者はいない。
人事部に配属されている夏海の代わりなんて幾らでもいる。企業とはそういうところだ。夏海がいなくても業務に支障をきたす事はない。
いつ上司の佐原に話そうか、そんな事をここのところずっと考えていたが、6月10日が過ぎるまでは結婚報告などする気になれなかった。
和樹は納骨堂に向かった。
「椎名さん」
線香をあげ手を併せた。弔いを終えると、住職に声を掛けられた。
「こんにちは」
「今日はお仕事はお休みですか?」
はい、と和樹は頷く。「実は今日は沙織の誕生日なんです。あと入籍する日だったのでお休みを頂いていました」
「そうだったんですか。それはそれは」
和樹はバッグの中から手のひらに収まる小さな箱を取り出し住職の前で開けてみせる。
「結婚指輪ですか?」
「はい。本当は沙織と一緒に買いに行く約束をしていたんですが。僕が選んだものだから沙織が気に入るかどうかわかりませんけど」
和樹がはにかんだように笑うと住職はにこやかに頷いた。
「椎名さんが選んだ指輪なら沙織さんも喜ばれますよ」
「だったらいいんですけどね。この指輪、骨壺の中に入れてもいいですか?」
「構いませんよ」
にこりと笑みを浮かべなら答えてくれた。和樹が頭を下げると住職は「じゃあ私はこれで」と袈裟をたなびかせその場を立ち去った。
線香の匂いがふわりと鼻をかすめる静かな空間。沙織の遺骨を目の前にし、和樹は何を話し掛ければいいかわからず骨壺にそっと触れた。
沙織に対して申し訳ないという思いもある。
沙織を思いながら夏海と結婚する後ろめたさもある。
しかし和樹にとっての妻は沙織しかいない。
骨壺にそっと口付けた。
そして二つの結婚指輪に赤いリボンを通し結びつけると骨壺の中にそっと忍ばせた。
「愛してるよ、沙織」
前日の雨がまるで嘘のような晴れ渡った空は雲一つない青空が広がっていた。
「沙織、誕生日おめでとう」
仏壇にチーズケーキとアールグレイを置き手を併せた。花瓶に活けた真っ白なカサブランカが沙織の遺影を飾り、背景が仏壇でなければ本当に愛らしい花嫁のようだ。
のそのそとクロが沙織の部屋に入って来ると和樹の横に前足を揃え腰を落とす。
「クロも祝いに来たのか? 沙織、クロが誕生日おめでとうって言ってるよ」
しかしクロは何を思ったのか突然後ろ足で頭を掻き始めた。
「相変わらずクロはマイペースだな」
和樹が苦笑いする。
「沙織、そろそろ行こうか」
今日だけは何も考えず、沙織の事だけを考え、そして笑っていようと決めていた。
沙織の誕生日である6月10日。
本当であれば今日沙織と入籍する予定だった。
先日夏海の両親に挨拶に行き、7月7日に入籍する事になった。職場にはまだ話していないが夏海は、もうあの日以来、出勤しておらず辞表を提出し6月末をもって退職となる。
体調不良という事になっているがあまりにも突然の事だったため銀行内はあらゆる噂が飛び交っていた。
しかしそれももう落ち着き和樹が知る限り夏海の話題を口にする者はいない。
人事部に配属されている夏海の代わりなんて幾らでもいる。企業とはそういうところだ。夏海がいなくても業務に支障をきたす事はない。
いつ上司の佐原に話そうか、そんな事をここのところずっと考えていたが、6月10日が過ぎるまでは結婚報告などする気になれなかった。
和樹は納骨堂に向かった。
「椎名さん」
線香をあげ手を併せた。弔いを終えると、住職に声を掛けられた。
「こんにちは」
「今日はお仕事はお休みですか?」
はい、と和樹は頷く。「実は今日は沙織の誕生日なんです。あと入籍する日だったのでお休みを頂いていました」
「そうだったんですか。それはそれは」
和樹はバッグの中から手のひらに収まる小さな箱を取り出し住職の前で開けてみせる。
「結婚指輪ですか?」
「はい。本当は沙織と一緒に買いに行く約束をしていたんですが。僕が選んだものだから沙織が気に入るかどうかわかりませんけど」
和樹がはにかんだように笑うと住職はにこやかに頷いた。
「椎名さんが選んだ指輪なら沙織さんも喜ばれますよ」
「だったらいいんですけどね。この指輪、骨壺の中に入れてもいいですか?」
「構いませんよ」
にこりと笑みを浮かべなら答えてくれた。和樹が頭を下げると住職は「じゃあ私はこれで」と袈裟をたなびかせその場を立ち去った。
線香の匂いがふわりと鼻をかすめる静かな空間。沙織の遺骨を目の前にし、和樹は何を話し掛ければいいかわからず骨壺にそっと触れた。
沙織に対して申し訳ないという思いもある。
沙織を思いながら夏海と結婚する後ろめたさもある。
しかし和樹にとっての妻は沙織しかいない。
骨壺にそっと口付けた。
そして二つの結婚指輪に赤いリボンを通し結びつけると骨壺の中にそっと忍ばせた。
「愛してるよ、沙織」