恋?…私次第。~好きなのは私なんです~
・はい?…解りました

名前は解っていた。記憶していた。交番で記入しているのを見ていたからだ。
記憶にはしていないが、電話番号の辺りまでも見るだけならチラッと見ていた。そして、さっき送って帰って来た場所が自宅なら、住所というか、住んでいるところも知ってしまった訳だ。先に送りますというのを丁重に断り、男性に先に帰ってもらう事にした。怪我人ですからね。

『高守信行』さん…。男性の名前だ。年齢は確か、47歳だったと思う。あは、私、結構覚えている…。名前を見て、年齢見て…見た目の若さに驚いたんだ。
…オヤジ狩り。そういうからには、相手は若い子って思ってしまう。軽いネーミングで表現してはいけない。強盗よ、強盗。

よく考えてみたら、お礼は改めてと言われて封筒は渡されたんだった。だから中には連絡先が入ってるって事だ。

お礼がしたいという相手に自分から連絡なんて。ちょっとし辛いモノだと思う。
まして打撲で済んだとはいえ、怪我をしているのだから、直ぐ行動する事も難しいだろう。
んー、一週間くらい空けて、それで、お怪我はどうですか、と連絡をしてみればいいかな。そのくらいが良さそうな気がする。うん、そうしよう。

交番に行った時、携帯でどこかに連絡を取っていたようだったけど、結局一緒にいる間には何か連絡が返ってきた様子もなかったと思う。
もしかして…独身なのかな。奥さんが居たらきっと直ぐ電話には出るだろうし、びっくりして慌てて来るかも知れない。それとも、仕事をしている人で、直ぐには来られなかったとか…。解らない。他人の家庭の事だもの。大した怪我では無いと伝えたら、…その程度の心配しかしないかも知れない。
…余計な詮索は必要ない。取り敢えず、重傷だとか、命を落とすような事にならなくて良かった。

あの公園は明かりもあるにはあるけど、本当にぽつりぽつりにだ。
高守さん…今日、運がなかったと思うしかないだろう。納得がいくモノではないけど、偶々あの男達のターゲットにされただけだ。それが高守さんだった。

あんな場面には出くわした事がなかったから、こっちも何が何だか、気が動転してしまった。
帰りが遅くなって、通り抜けようとした場所で、喧嘩なんかしてる、と、最初は思った。だけど…様子が違った。
これは喧嘩なんかじゃ無いと思って、やっと出た言葉が…コラー、だ。…はぁ。
…子供の喧嘩ではないのに…情けないったら…。警察よ!とか、お巡りさんこっちです!とか言って駆け寄っていたら、嘘でも気の利いた言葉をもっと早く掛けていれば、少しでも怪我が少なかったかも知れないのに。
…囲まれていた。それを見て本当は怖くて直ぐ声が出なかった。ただ見てしまっていた。コラーッて言うまでにも時間がかってしまってたし…。しかも、ちょっと噛んじゃったし。…情けなかった。
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