キミに嘘を吐く日
「何してるの?」


ぽわんと寝惚けたような宇野くんの様子に、寝顔を見てしまった罪悪感がフツッと消えた。

逆にほんの少し咎めるような口調で言った。


「怒ってるのか?」

「……怒られることをしたの?」


自覚の有無を確認したくて問い返すと、宇野くんは「そうかも」と言って、枕にしていた本の全てを私の前に差し出した。


「御門さんが来たら、すぐ渡せるようにしたかったんだけど、あれから全然来ないから待ちくたびれて寝てた。だから、今日も夢かと思ったんだよ」


あの日からずっと私を待っていたんだ。

夢に見るほど?

宇野くんが無茶苦茶な事をしていることに呆れていたのに、そんな事を言われたらどう返していいか分からない。


「読まない本をキープしておくなんて、他の人に迷惑だから。借りる気もなかったし……」

「そうなのか?なんだ、気にして損した」


さっきから、宇野くんが使う言葉が微妙に気になる。

待っていたとか、気にしていたとか、言葉のチョイスがおかしい。


「……とりあえず、この本は今日読んでしまうつもりだから、明日からは今日みたいなことはしないで」

「分かった」


素直に頷く彼を見届けて、私は立ち上がって本を抱えた。


「……どこ行くの?」


宇野くんがら座ったまま視線をあげてくる。


「あっちで読もうと思って。私、人の目があると集中できないの」



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