ホワイトデーの約束
消えていく熱
バレンタインから二週間ほどが経ち、先輩が4月から部長に就任することが決まった。

正式な人事が発表されるのはまだ先だが、即戦力になるよう少し前から現部長に付いて仕事をしている。
うちの会社は部長の権限が広いためか、色々と大変らしい。

それでも先輩は私のためになんとか時間を作ってくれて、今日は午後から仕事だという彼と半日デートだ。


「香奈」


約束した時間の15分前に待ち合わせ場所へ行くと、そこにはもう先輩の姿があった。

最近新調したというネイビーカラーのスリーピースを見事に着こなし、その上に羽織った黒のトレンチコートは身長の高い彼によく似合っていた。

仕事場でいつも見ているはずなのに、どうしてこうも格好いいのだろう。


「すみません。遅かったですか?」
「そんなことはない。俺が勝手に早く来ただけだ」


それでも忙しい中時間を作ってくれた彼に、少し申し訳なくなる。
もうちょっと早く来ればよかった。


「あの、本当に大丈夫ですか?久しぶりのお休みですし、やっぱり家でゆっくりしたほうが」
「あぁ大丈夫だ。俺は香奈といたいんだ」


そう言うと、彼はごく当たり前に私の手を握る。


「それに俺にとっては香奈と一緒にこうしていられることが何よりの休息だからな」


右手から伝わるぬくもりがちょっと照れくさい。
普段、真面目でクールな先輩がこんな甘い言葉をくれるなんて思いもしなかった。
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