エリート上司の甘く危険な独占欲
「会社はどっちの方?」
「こっち」

 健太が示したのは、華奈のオフィスがある方角とは逆方向だ。

「私はこっちだから、それじゃ、ここで」

 華奈が歩き出そうとすると、健太は「待って」と止めた。

「今日はホント、華奈と話せて楽しかったよ」
「私もだよ」

 健太は小さく息を吐いて、真顔で言う。

「前もそうだったのにな」
「え?」
「いや、付き合ってた頃のことだよ」

 そう言われて、華奈は困ってしまった。健太は言葉を続ける。

「あのさ、せっかくこうして会えたし、よかったら近々一緒に飲みに行かないかな? 華奈のことをもっと知りたい。あの頃は見えなかった華奈の本当の姿を、もっと知りたいんだ」
「あー……」

 華奈は視線を道路に落とした。ここのところの男性運の悪さを思うと、健太の誘いに乗り気になれなかった。

 華奈の様子を見て、健太が困ったような声を出す。

「え、ちょっと、そんなに深刻に考えないでよ」

 華奈がチラッと見ると、健太は他意のなさそうな笑顔だった。

(そっか、健太は恋愛感情抜きで女性と食事ができるタイプだったんだ)
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