エリート上司の甘く危険な独占欲
 健太は笑って話を続ける。

「それで、大塚(おおつか)のことは覚えてる?」
「大塚くん? うん、覚えてるよ。黒縁メガネをかけた、声の大きい男子だよね」
「そうそう! あいつ、起業して今はやりの仮想通貨の取引所を作ったらしい」
「えーっ、なんか前にニュースになってたよね。セキュリティとか大変そう……」
「俺にはさっぱりだよ」

 健太がお手上げ、というように両手を広げて見せ、華奈はクスッと笑った。もう二人の間には、過去の忌まわしい出来事など存在していないように思えた。

(あの頃は二人とも恋愛初心者だったしね。私の場合、今だってあまり進歩してないけど)

 そんな嫌な思いを忘れるように、華奈は健太と懐かしい同級生の話を続けた。健太は気を遣っているのか、たいして二人の過去に関係のない、誰でも知っているような同級生の話をしてくれる。

 そうして楽しく話をしていると、昼休みという短い時間はあっという間に過ぎた。

「そろそろ出なくちゃいけないな」

 健太が腕時計を見て言った。あと十分ほどで一時になる。

「あ、ほんとだね」

 二人はそれぞれ会計を済ませて店を出た。華奈は健太に向き直る。
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