エリート上司の甘く危険な独占欲
『なにかあったの?』

 少しのあと、メッセージが既読になり、返信がある。

『なにもない。来てほしくないだけだ』

 その言葉に華奈は息をのんだ。今日、彼に同行した後輩社員は、総合販売部に十月に異動してきたばかりの二十六歳の女性である。外見は華奈とは対照的で小柄でかわいらしいが、仕事に対しては外見から想像できないようなアグレッシブさを見せ、仕事ぶりが管理職の間で高く評価されている。

 彼女は異動してきた翌日、昼休みに貿易管理部にいる華奈を訪ねてきた。そうして華奈をじろじろ見て、こう言ったのだ。

『あなたが一之瀬部長の彼女なんですね』
『そうですけど』

 彼女の勢いに半ばたじたじとなりながら華奈は答えた。彼女は華奈を鋭い目つきで見たまま言う。

『とりあえずは納得しました。でも、“とりあえず”ですから』

 そんな挑発的な言葉を残して、貿易管理部を出ていった。麻衣は『あの人、颯真くんに気があるのかな』と心配そうにしていた。麻衣からその話を聞いた颯真は、『そんなわけないよ』と笑っていたらしいけど……。
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