エリート上司の甘く危険な独占欲
「いかがいたしましょう」
「あちらの女性に、マルガリータを」

 颯真は華奈を視線で示した。

「かしこまりました」

 バーテンダーは底が丸く膨らんだカクテルグラスを手に取った。半分に切ったライムをグラスの縁にぐるりと押しつけて縁を濡らし、そこに塩をつけた。シェーカーにテキーラとホワイト・キュラソー、ライムジュースと氷を入れて濾し器を被せ、蓋をしてシェイクする。その小気味いい音を聞きながら、颯真は華奈を見た。

 一七〇センチ近い身長で、ぽってりした唇がなんとも愛らしい彼女は、酔った男性社員の間でよく話題になった。『一晩付き合ってみたいな』などと言う輩もいるくらいだ。

 一度、総合販売部の入社五年目の男性社員が華奈に告白して、撃沈したらしい。忘年会のときに、すっかりできあがった彼に『僕も一之瀬部長みたいにイケメンだったら、川村さんに付き合ってもらえたかもしれないのに』と恨めしそうに言われた。だが、華奈は颯真に必要以上に接近してこないし、用がない限り話しかけてこない。そもそも用事があるときは、社内メールで済まされる。
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