エリート上司の甘く危険な独占欲
『一之瀬部長は恋人はいないんですか?』
『今はね』
『じゃあ、川村さんと付き合ったらいいじゃないですか』
『彼女にその気はないよ』

 そう答えた颯真に、その男性社員が赤い顔で絡む。

『そんなことないっす。ああいう美人は、ハイスペックで経験豊富な男がいいに決まってます』

 その根拠のない思い込みに、颯真は大人げないと思いながらも、少しムッとした。

『思い込みでものを言うもんじゃないよ』

 颯真はそうたしなめたが、酔っ払った相手には通じなかった。

 コトリ、と音がして、バーテンダーが華奈の前にカクテルを置いた。

 驚いて顔を上げた彼女に、バーテンダーが颯真を示して言う。

「あちらのお客さまからです」

 華奈がバーテンダーの手の先へゆっくり顔を動かし、颯真に気づいて目を見開いた。

「い、一之瀬部長」

 颯真は軽く左手を挙げた。華奈の顔が引きつったのが見える。

(俺の助けも……アルコールの助けも必要なかったかな)
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