エリート上司の甘く危険な独占欲
『なにするの――』

 文句を言いかけた唇を無理矢理キスで塞がれて、華奈は目を見開いた。昼休みの中庭で、周囲には同じ大学生がたくさんいる。

『やめてよっ』

 華奈は牧野を押しやり、ブラウスの袖で唇を拭った。『おいおい、見せつけんなよ』というヤジの声と、冷やかすような口笛が聞こえてくる。

『違う!』

 釈明しようとした華奈は、視線の先に健太の姿を見つけた。目が合った瞬間、彼の表情が軽蔑に歪む。

『健太っ』

 華奈は右手を伸ばしたが、彼の姿は再び闇に紛れて消えた……。



「華奈、華奈、大丈夫か」

 華奈は肩を揺すられて、ハッと目を覚ました。目を開けた拍子に目尻から涙が一筋こぼれる。

「苦しそうにうなされてたよ。なにかつらい夢を見たの?」

 目の前で気遣わしげな表情を浮かべている相手が、上のフロアの部長だと気づいて、華奈は目を見開いた。
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