エリート上司の甘く危険な独占欲
 颯真が右手で華奈の顎に手を添え、彼の方を向かせた。

「でも、ホント、最低な失恋の夢で……」
「失恋の夢?」
「はい。付き合ってた人がいたんですけど……彼はほかの男子の嘘を信じて……」
「華奈の言葉を信じてくれなかったのか」
「はい。おまけにその嘘をついた男子に人前でキスされてしまって、それ以来、私は軽い女だって見られるようになっちゃって……」
「最低だな」
「ホントに最低な失恋でしょう?」

 華奈は場を和ませたくて、あはは、と力なく笑い声を上げた。

「違う」

 華奈の右手に颯真が左手を重ねてシーツに押しつけた。

「違うって、なにが?」
「その男が最低だって言ったんだ」

 その言葉に、華奈の胸になにか温かなものがほわっと生まれた。

 遊び人の牧野に人前でキスされて以来、仲良くしていた女子学生に避けられるようになった。牧野にしつこく迫られ、身の危険を感じたのもあって、華奈は大学の交換留学制度を利用して、二年間、カナダに留学した。留学を終えて戻ってきてからは、できるだけ目立たないようにして学生生活を終えた。

 今初めて味方を得たような気がして、目頭が熱くなる。
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