エリート上司の甘く危険な独占欲
 いつまで手を離さないつもりだろう、と思ったが、エレベーターが来たときに颯真は手を離した。やがてドアが開き、華奈は颯真に続いて乗り込んだ。

「一之瀬部長って意外と強引なんですね」

 華奈は頬を膨らませた。颯真がクスリと笑い、華奈の口調を真似て言う。

「川村主任って意外とかわいらしいんですね」

 華奈は頬にサッと血が上るのを感じた。赤くなった顔を見られないように、左側に顔を向ける。

 ほどなくしてエレベーターは一階に到着し、華奈は颯真とともに隣のビルの一階にあるカフェに入った。

「あ、華奈さんだ~!」

 奥のテーブル席に座っていた麻衣が、華奈を見つけて手を振った。

「あ、一之瀬部長、スマホありました?」

 華奈の一年後輩で、広報部の村上(むらかみ)梓(あずさ)が言った。梓は肩の長さに揃えたストレートヘアが知的な印象の女性で、カッチリとしたライトグレーのスーツを着ている。

「ああ、あったよ」

 颯真はジャケットのポケットを軽く叩いて見せた。

(なんだ、私のことは忘れ物のついでだったんだ)

 華奈はなんとなくおもしろくない気持ちになりながら、麻衣の隣に座った。颯真が華奈の隣に腰を下ろそうとしたとき、前の席に座っていた梓が言う。
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