花束はいらない



部屋の中は、前にクラスメイトの課題を集めて提出しに来たときとあまり変わってないように見えた。

棚に入りきらなくて机や床に積み上げられたたくさんの本。壁際にはなにに使うかよくわからない埃をかぶった謎の教材や畳んだダンボールがたてかけられている。

机の上の本をかき分けて作った小さなスペースでパソコンのギーボードを叩いていた先生は、わたしが部屋に入るとキィと椅子を鳴らして振り返った。

「南里さんが私を訪ねてくるなんて珍しいですね。なにか困ったことでもありましたか?」

黒縁の眼鏡の奥で、切れ長の目が心配そうに細まる。姿勢のいいひと。毎日シワひとつない白いシャツを着て、短い黒髪のセットは流行りに合わせてときどき小さく変えている。宮沢賢治オタクの国語科教師。二年四組の担任。すきな食べものはカレーライスで、愛猫の名前はわさび。

斎藤光先生。わたしの、すきなひと。



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