あの日の帰り道、きっとずっと覚えてる。
繰り返す世界


桜が宙を舞う時期はとうに過ぎ、時は既に五月の中頃。
引越しや大変そうな手続きは叔父さんたちが全て処理してくれ、新学期、海光は転校することなく翔琉の家から通うこととなった。

翔琉の家に初めて来た時、私は驚いた。
青い屋根に白い壁が特徴的な、大きな一軒家だったから。
庭は広くはなかったが、背の低いピンク色の薔薇の木が一本と、カラフルなチューリップが植えられた花壇があり、美しかった。
きっと、オシャレな千佳さんが手入れをしているのだろう。

千佳さんというのは、翔琉のお母さんのことだ。
引越し当日、「私のことは千佳さんとか、お母さんとか何でもええよ。あ、おばさんはちょっといややなぁ」と言っていたので『千佳さん』と呼ぶことになった。
私の中で『お母さん』はたった一人だから。
それは一生、変わることは無いだろう。

千佳さんや翔琉は私たちのために色々と手を尽くしてくれた。
だから私は引き続き家事に明け暮れる。
少しでも、心優しい天野川家の役に立つために。

翔琉の家の階段を上がってすぐの部屋を借りることになったため、引越しの際、ほとんどの物を売り払った。
もちろん、大切な思い出類は保管しているが、大まかに部屋にあるのは海光の勉強机とその棚、そして布団が二つあるくらい。

そんな新しい生活も一ヶ月半ほど経つと、もうすっかり馴染んできた。
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