あの日の帰り道、きっとずっと覚えてる。
そんな俺とは反対に、不安そうな目で見つめてくる光希歩。

「私は…前を向くのが怖い。一度前を向いて、蹴り落とされたから。たとえ憶測だとしても考えてしまうの…」

一度立ち上がって砕かれた勇気の再建は難しい。それでも俺は、光希歩に前へと歩み出してほしいんだ。一歩ずつ、自分のスピードで。

「それでも俺は、支えるから。もし蹴り落とされそうになっても、俺が光希歩を上に持ち上げるから。光希歩は一人じゃないから。立ち向かってくるものに、向き合ってみよう?原発問題も同じやろ?向き合って、初めて再スタートがきれるんや」

光希歩はしばらく間を置いたあと、ゆっくりと頷いてくれた。
それだけで嬉しかった。

「じゃあ、オーディション受けてみるか!?良さげなところ、この前見つけてん!」

少し興奮してしまった俺は即座にスマートフォンのサイトを見せた。

「でも…オーディションに落ちたら、私…」

「大丈夫!そん時はまた別の道がいくらでもある!無限の可能性あるんやで!」

そう言うと、光希歩は困った顔をしているのに、小さい子を見るように微笑んだ。

「翔琉は本当に前向きだね。その考え方、私にもちょうだいよ〜」

俺は笑った。
そんなもの、いくらでもあげるよ。
君のそばにいるって、支えるって約束したんだから。

そうして光希歩の止まっていた時計は、再び針を動かし始めた。


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