あの日の帰り道、きっとずっと覚えてる。

ゴソゴソとビニール袋をいじる音が終わると、パタパタと音を立て、光希歩の顔が現れる。

「…あ」

来てたんだ。と言わんばかりに声を漏らす光希歩。

「よ、よう。…今日も塾残ってたらこんな時間なったわ」

「…塾行ってるの?」

「あ、うん。まあな」

「へえ…」

会話が途絶える。
俺は事前に考えてきたことを話した。

「毎日家の手伝いとか偉いな」

すると光希歩は少し考えた様子で答えてきた。

「…違う。偉くなんかない。こんなことしか出来ないから…」

言っている意味がよく分からなかった。
勉強が苦手だから、家事しかできない。ということだろうか。

「まあ、人には向き不向きがあるしな!俺、基本家事やらへんし、できひんし。俺は光希歩のこと、偉いと思うで」

「……翔琉、家事しないの?」

名前を呼んでくれたことに少し興奮しながら、彼女の問いに答える。

「うん。まあ、うちの家、母親が専業主婦やし」

「ダメだよ、手伝わなきゃ。専業主婦でも結構家事って大変なんだからね。家事に休みはないんだから」

突然、口数が少なかった光希歩がはっきりと言ってくれたことに、なんだか俺は嬉しくなった。

「そ、そやな!ごめん!これからは手伝うわ!」

光希歩は深く頷き、俺は家事を手伝うために帰ると言った。

時間もそろそろ限界だったという理由もある。

長く真っ直ぐな道をただただ走り、家に着くと、まだ母に角は生えていなかった。


そして、きちんと手伝った。
自分の弁当箱を洗って。
不思議そうな顔をする母に家事のことを色々聞いて。
短い時間だったが、俺は光希歩に言われた通り、なれない家事を手伝い続けた。




明日、光希歩に話せるように。
明後日、光希歩に笑ってもらえるように。
これから毎日、光希歩に会えるように。

< 25 / 240 >

この作品をシェア

pagetop