恋にはならないわたしたち
「失礼なヤツやな」
そう言うとグイッと顔が近付けられて瑞穂の唇に三池の唇が軽く触れた。
「ええか、ジジイの前でお前はニッコリ笑ってオレの言うことに全てはいかイエスで答えろ。そうしないとお前一生後悔させてやるからな」
整った顔に貼り付けた黒い笑みに怯え、なんでコッチが脅される!?と理不尽な思いをしながら瑞穂はただ首を縦に動かした。
連れてこられたのは名前だけは知っている有名な総合病院だった。三池は慣れているのか受付で聞くこともなく病院の中を突っ切って行く。
瑞穂の手を握って。
エレベーターに乗り、5階のボタンを押した三池をそっと盗み見る。
淡いブルーの細かいストライプのシャツ、ベージュのノータックパンツ、足元は茶色のモカシン。
スタイルが良いので何を着ても似合う。
昨夜も今朝もこの男に抱かれたなんて夢じゃないかと思ってしまう。
銀行での三池は愛想が悪いわけではないけれど、必要以上には喋らない。明らかに彼狙いの女の子にはどんなに綺麗でも可愛くても、いっそ清々しいほど素っ気ない。