冷たい君の不器用な仮面
「……はあっ!はあっ!」
私は、勢いよくガバッと体を起こし、周りをキョロキョロと見渡す。
……バー……だ……
私はいつもの見慣れた空間を見て安心し、ふうっと息をついた。
……夢……か……
まあ、夢……ではないんだけど。
現実ではなかったのに、ガクガクと震える体。
私はそんな自分の体をぎゅっと抱きしめ、大きく深呼吸した。
ーーー……大丈夫、大丈夫。怖くない
そう自分に語りかけると、だんだん激しくなる鼓動もおさまってきた。
私は少しクラクラする頭を抑え、そっと横を見る。
そこには、スースーと規則正しい寝息を立てながら熟睡しているマスターがいた。
……マスターも、疲れてるんだろうな
私は起こすのもなんだか気が引けて、静かに椅子を引き立ち上がった。
時計を見ると、9時15分を指している。
…まだ間に合う…行かなくちゃ……
そう思った瞬間、どしんっと重いものが心にのしかかった。
呼吸が苦しくなり、これから起こることに怯えている自分がいる。
……でも…サボるわけにはいかない……
私は思い足を引きずって、店のドアを静かに開ける。
……何があろうとも、仕事だけはーーー……
私はマスターに少し罪悪感を感じながらも、そっとバーを出た。