紅茶色の媚薬を飲まされて

「ネル、大丈夫か!?」

様子がおかしいことに気づいたのか、ネルの手からカップを取り、カバリはネルの肩を抱く。

「手、すごい熱いぞ。まて、水を……」

近場にある水桶から水を汲もうとするカバリの手にそっと手を添えて、ネルはふるふると首を振る。

「だいじょぶです…!
カバリさま、わたし、ちゃんと飲めました…っ、ので帰ってくだしゃい……」

上気する頰と、次第にとろんと微睡んでくる目をなんとか開いて、真近にいるカバリに必死に懇願する。

けれど、懇願しているのとは別の思考で、近くに触れるカバリの腕や厚い胸板に、なんだか胸の底から熱いものが込み上げてくる。

(すごい、……媚薬ってこんなに速攻で効くものなんだ)

どこか思考が冷静だったのは職業病だろうか。
けれどその冷静さも、どんどん熱いものに奪われていく。

「全然大丈夫じゃないだろうが……。水だ、飲め」

「ん……」

カバリが差し出すそれを受け取ろうとして、上手く掴めず、びしゃりと胸元にこぼしてしまう。

「ご、ごめんなしゃ…」

「謝るな。それより、部屋まで運ぶ」

そう言ってカバリはすごい力でネルを持ち上げた。

「お、重い、です…」

「少し黙ってろ、部屋は紅茶殿の裏の寮だな?」

もやもやと霧がかって行くような思考の中、ネルは最後の力を振り絞って「一階のいちばんおく」とだけ言って、こてんと首をカバリの胸に落とした。

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