God bless you!~第8話「リコーダーと、その1万円」・・・予算委員会
何も要求していない
その放課後。
生徒会室にやってきた。
当然というか、右川は居ない。
放課後、俺は声を掛けなかった。あっちも逃げるように出て行った……。
ズブ濡れの俺は、フケた5時間目の間に部室でジャージに着替え、誰よりも早く生徒会室でチャージしている。
委員会開催直前、駆け込むようにやってきた回答書の数々。
サッカー部。陸上部。演劇部。諸々。
どれから手を付けようかと迷っていると、そこに阿木がやってきた。
「授業サボったのね。珍しい。そう言えば、右川さんも居なかったわね」
また何を妄想しているのか。
「これ、その右川さんから渡されたけど」
「どれ?」
見れば、恐ろしく整った文字と、他の団体とは明らかにケタの違う金額が、静かに、厳かに主張する。〝吹奏楽部 会計 江田ユミカ〟とサインがあった。
その横に〝部長 重森ヒロム〟も。
吹奏楽は、ちまちまと寄越した値上げ請求を一切棚に上げ、去年のままの金額を要求している。
そんな可愛気のある奴らではない。
これは挑戦状だ。
おそらく委員会当日、異議をとなえて会議を混乱させるつもり。
そうなると、当然こちらにも何か切り札が必要になる。電卓を取り出し、エクセルも全開、一心不乱、俺は計算に没頭した。
俺様の計算能力を甘く見るなよ。明日は、経験&実力を突きつけてギャフンと言わせてやる。
「右川さんが、江田さんから直接、預かったみたいよ」
大いに引っかかる。吹奏楽が右川に手渡す?右川に運ばれてやってくる?
まさかと思うが。
「これ、どっか細工してない?」
「え?」
阿木は、ほとんど軽蔑に近い眼差しを向けた。
「病んでるとしか言えないわね。これは間違いなく、江田さんの字よ」
「とかって、右川の事だから一応、疑っとかないと」
どういう経緯で回答を受け取ったかは謎だが、何かを企んで小細工、十分ありえる。
「右川さん、見たとは言ってたけど。それ以外は何も」
「見た?」
見た。
見た。
見た。
興味を示したって事か。
探す事は諦めて、持ってる所から奪う?
トロフィーを売って?会計係を手中にして?
「深読みし過ぎ。ちょっと見るぐらい、誰でもするわよ」
阿木は全く引っ掛からない様子だ。
確かに、回答にイジった形跡は見当たらない。それを何度も確認して、「しつこいわね」と、阿木に煙たがられて、そこから俺は計算に戻った。
スイソーらしく、正確。きっちり。
寸分の狂いも、計算間違いも無い。他の団体も見習って欲しい。
そして、事実上、これが最後になるというのに、何も要求していない。
そして、予算委員会。
当日を迎えた。
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