God bless you!~第8話「リコーダーと、その1万円」・・・予算委員会
俺は黙る。どう言えばと考えて。色々と迷って。結論が出なくて
昨日振った雨が、今日も小雨で降り続く……5月。
連休前だと言うのに、まだまだ寒い。
我が執行部は、いつもより早く登校して、配布用にまとめた予算案をコピーしていた。
予算案自体は出来あがっている。これが最終稿。
にも関わらず、演劇部には、「ツラ貸せよ。オラぁ!」と、ヤンキーを演じて呼び出され、さらに剣道部には、「真剣勝負。あい、願い奉る」と呼び止められて恭しく一礼され、書道部には青ざめた顔で、「こっち来~い~」と呪いを掛けられた。
そして、何故か学校の事務局からも呼び出されている。
事務員から「生徒会の誰か」と言われて、「「「あたし達、コピーしておくから」」」と、3人+頷く真木、に見事なコーラスでもって、俺は送り出された。
というか追い出された。
生徒会の雑用、アタリマエのように、議長の俺が向かう……納得いかない。
右川は、当然と言うか、姿を現さなかった。ていうか、あいつには元から何も知らせていない。どうせ面倒くさがる。言うだけムダ。
そして昨日の今日、俺はまだまだ怒っている。情けないし、口惜しいし。
バドミントンに渡す預り証は用意した。
1万円は……ここだけの話。生徒会にある隠し財産(?)を宛がう。
小銭だらけのガラス瓶だが、5千円はあるだろう。足りない分は……この際仕方ない。そこは俺が補うより他ない。
これから1年掛けて、ちょろちょろと小銭が集まり、5000円が俺の財布に戻ってくる奇跡を待つのだ。(期待しない。だが信じている……名言!)
これが最終稿に間に合って良かった。確実に反映させることで決着とする。
『事務局』
たまにしかお目にかからない事務のオバさんが小窓から顔を出して、「ここに名前書いて」と、用件よりも先に署名を求められた。同時に、「落し物だってさ」と、ホイと軽く渡される。
くまもんのイラスト入りの封筒。よれよれだし、かなり汚れている。
「この人」と、預かりリストにある2年女子の名前を指さして、
「なんか、随分前に拾ったらしいんだけど、渡すの忘れてたってさ」
その言葉を鵜呑みにしたのか。……疑わしきは罰せず、か。
中味によっては、かなり厳しい。
表に〝生徒会さまさまへ〟と書いてあり、中を開くと、〝今年も、バドをよろしくお願いします〟と和紙に書かれた丁寧な文章で、封筒とのバランス感覚が突き抜けている。
〝平成20年度卒業生  長谷川マユ〟
そして、中から半分濡れた1万円が出てきた。
これは……どういう事だろう。
右川が預かった1万円だと思えた。ネコババしたんじゃなかったのか。
HRはとっくに始まっている。
俺は教室の後ろからコソコソ入って、席に着いた。
隣の桂木が親指を突き出して、
「50部。完了。視聴覚室の準備も完了です。議長」
「おう」
俺は封筒を一旦、自身の制服のポケットに仕舞った。
右川、まだ来ていない。また遅刻か。サボりか。まさか、まだ探しているとか。
1時間目が終わった。
2時間目が終わった。
3時間目が終わった。
4時間目が始まってから、右川がやってきた。
マフラーを巻いてマスクをして、まるで冬支度である。昨日の今日だ。何だかバツが悪い。戻ってきたお金の事を、どう伝えてやろうか。
昼休みになり、右川の方から俺の目の前にやってきた。珍しい事もある。
そこで3回咳き込むと、マスクを顎に外して、「沢村ぁ、ちょっといい?」と手招き。そこから、いつもの、あの、例の水場まで、俺は黙って連れ去られた。
悪い事しか起きた事がない、あの水場である。
だが天気は味方したのか、降り続いた雨は、今はすっかり止んでいる。
「あのさ、昨日の事だけど」
また咳を2つ。昨日の雨で、風邪を引き込んだに違いなかった。
「いつかの、その……お金、ハイ」
そこで白い封筒を寄越して、また3回咳き込む。
……このお金は一体どこから。まさか、山下さん。
「これ、バドさんから預かってたお金で」
また咳を1つ。ズルズルと鼻水をすすりながら、またそこで咳き込んだ。
「実は、あたし、預かった後で、どっかで無くしちゃってさ」
「無くした……」
「そそ。預かってすぐリュックに入れたけど。あれこれ出してるうちにどっか行って」
それで疑わしいあちこちを探して回った、けれど見つからなかった。
「そしたらさ。昨日、マッキーが1万円貸してくれたんだよ。さすが金持ち~♪後は、あたしがバイトして、マッキーに返せばいいし。アキちゃんには誕生日を一カ月待ってもらうとして。なので、はい」
まるで用意された何かを読み上げるみたいに、淀みなく、スラスラと、右川は並べ立てる。
「沢村議長、そんなに思い詰めた?まさか、泣きそう?」
これは、どういう気の遣い様なのか。
こいつ泣いてやんの!とか言いながら笑い散らせばいいだろ。
いつもの、おまえだったら絶対そうする筈だ。本当に泣いてやろうか。
今なら、本気出したら泣ける。
「何で昨日そう言わなかったんだよ」
「うーん、と。これは、どう言ったらいいかなって考えて。何言っても疑われそうだなって思って。色々と迷って。結論出なくて。言い訳する時間があったら、とにかくお金をどうにかしなきゃって」
俺は黙る。
どう言えばと考えて。
色々と迷って。
結論が出なくて……俺は言葉を無くして黙り込んだ。
それをどう誤解したのか「沢村、だいじょぶ?」と右川がまた機嫌を伺う。
「勘違いすんな」
こっちは顔を背けた。
「俺がその事実に感動して、おまえを心から許すとでも思ったか」
ちゃんと生徒会に出ていれば、ルールも聞けた筈。俺だって、そういう事なら貸してやったし、相談してくれたら他にも方法はあった筈。
生徒会室を避けて、作業を怠けてるから罰があたった。そう、罰が当たったんだ……そう決め付けて、おまえをアザ笑うほど、俺は極悪ではない。
だからと言って、この現状。よく頑張ったとか、風邪引いてまで健気なヤツだなとか、言いたくもない。
「何だよ。その自分勝手な着地は。何で一言相談しないんだよ」
「だから、マッキーに」
「なんで真木……」
「だって、ちょうどいい時に居たんだもん。どうしよっかなーって考えた時に、ちょうど電話くれてさ」
「そうか。真木はちょうどよくて、泥水に手を突っ込んだ俺は的外れか。悪かったな」
かなり踏み込んだと思う。
右川は眉間に皺をよせて、どう言えば良いかと返事に困って、3回続けて咳をして。
いつもこうだ。俺ばかりが不快感に襲われる。これはお前の特殊能力なのか。
「俺を陥れて、おまえは満足か」
「お、陥れるって……」
「俺は極悪非道。理由も聞かずに、仲間を泥棒呼ばわりした最低の鬼畜」
「別に、そんな事狙ってないよ。もう気にしてないから」
「気にしろよ!」
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