心にきみという青春を描く



「松本先輩のことタイプじゃないです」

「え……」

ガーンという効果音が聞こえてきそうなほど、松本先輩はショックを受けている。


「声は大きいし、空気読めないところあるし、部屋だって汚いし、色々と私の好みからは遠い場所にいます」


同情してしまうほど追い討ちをかける詩織先輩。松本先輩が立ち上がれなくなる前に、なにかフォローしようと言葉を探していると……。


「でも、嬉しかったです。タイプとか好みとかどうでもよくなるぐらい、先輩のことをカッコいいと思いました」


詩織先輩がニコリと笑いかけると、再び松本先輩の顔が赤くなる。

もしかしてこれは、と誰もが期待をして。松本先輩は意を決して核心的なことを言う。


「じゃあ、俺と付き合う――」

「それとこれとは話が別です」

言い終わる前に、詩織先輩はきっぱりと遮った。まあ、簡単にはいかないだろうと予想はしていたけれど。


「当分は絵が恋人です。これまで以上に部活に力を入れて、みんなにも引き続き厳しくするので覚悟してくださいね」


「えー」と文句を言う天音くんに、「はは、振られてる」と笑うなぎさ先輩。

「え、保留でしょ?保留って意味だろ?」と、声を大きくしながら聞く松本先輩を「片付けて、もう帰りましょう」と、無視する詩織先輩。


五人がそれぞれの色を持ち、五人じゃなきゃ出せない色がある。

美術部に入ってよかった。みんなと仲間になれてよかった。きっとこの気持ちを幸せと呼ぶんだと、私は改めて実感していた。

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