副社長と恋のような恋を
「あの人はかわいそうな人なんだ。父さんと結婚する前に、付き合っていた人がいたんだ。でも親に無理やり父さんと結婚させられた。父さんは自分勝手な性格で、よそに女は作るし、お祖父ちゃんとは大喧嘩して、結果自分で事業立ち上げるし。だから、母さんは孤独を兄さんや俺で埋めようとしたんだ。自分が求める理想の息子像を俺たちに押し付けた。結果、兄さんは自分の才能を武器に海外に行って、俺は会社には入ったけれど、実家に寄り付かない息子になったって感じだな」

 話を終えるとごめん、寝る前にするような話じゃないなと言って、私の頭を撫でた。

「そんなことないです。明人さんのことを知れて嬉しいですよ。話してくれてありがとう。あの、リビングにある絵。お兄さんが描かれたものですか?」

「そうだよ。前、二番目になりたかったものは才能がないって気が付いて辞めたっていうの、覚えてる?」

 確か親睦会のとき、村田先輩がなりたかった職業ランキングを言うみたいなことになったときの話だ。

「はい、覚えてますよ」

「あの絵を見て、俺には描けないと思って画家の道をあきらめたんだ」

「だから絵がうまいんですね。村田先輩が褒めてましたよ。趣味で描くことはあるんですか?」
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