副社長と恋のような恋を
「デッサンくらいだけど、ときどきね」

「今度見せてください」

 副社長はすごく嫌そうな顔をして、ダメと言った。

「なんで?」

「兄さんの絵を見たあとに見られるのが耐えきれない」

「別に比べたりしませんよ。もし、見せてもいいって絵が描けたら見せてください」

「わかった」と言って、副社長は目をつぶった。

「え、もう寝ちゃうんですか。あの、もう一つ聞きたいことがあるんです」

 そう言うと副社長は目を開けた。

「なに?」

「副社長が作家をしていたときのペンネームを教えてください」

「それを聞いてどうするの?」

「本を買って読みます」

 すると副社長は笑いだした。

「もう絶版になって売っていないかもしれないよ」

「そしたら、古本屋やネットで探します」

「うーん、教えない」

「どうして?」

 副社長がどんな小説を書いたのか、すごく気になっていた。私の小説に挟まっていた感想文。あれからさっすると感性の鋭い作家だったんだと思う。

「じゃあ、麻衣も俺を見つけてよ。俺が都築麻衣を見つけたように」

「いいですよ。じゃあ、私の質問に答えてください」

 大きな手が私の頬に添えられた。副社長はどうぞと言った。

「どうして作家を辞めちゃったんですか」
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