副社長と恋のような恋を
 結婚式用のタキシードは黒、シルバーグレー、白があった。誰でも無難に着こなすことができるのは黒。でも、副社長なら白いタキシードでも似合いそうだと思った。

 男性のだからデザインのバリエーションは少ない。モーニングコート、フロックコート、テイルコート、タキシード。時間帯によって着るものも変わってくるけれど、結婚式で細かく気にする人も少ない気がする。

 本当に結婚式で着るわけでもないし、純粋に副社長に似合いそうなのを選ぶことにした。

「これなんかどうです?」

 私は白のタキシードと白蝶ネクタイのを選んだ。オーソドックスなデザインだけど、背も高いし、顔もいいから、似合いそうだなと思った。

「うん。これを着るよ。佐藤、麻衣のこと頼む」

「はい。では、どうぞこちらへ」

 私と副社長は案内されたフィッティングルームへとそれぞれはいいた。

 副社長が私に選んでくれたのは裾がぶわっと広がり、幾重にもレースが重なったプリンセスラインで、ショルダーはビスチェのものだ。

 服を脱ぎ、ウェディングドレスに足を通す。佐藤さんともうひとりの女性スタッフによってドレスが体に合わせられた。背中でせわしなく手が動いているのを感じる。そして何度かに分けて、ギュッと腰とみぞおちあたりが締めつけられた。思っていたよりきつくはない程度だけれど、普段の服装に比べれば息苦しく感じた。
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