副社長と恋のような恋を
「よくわからないけど、俺のことをかわいいなんて言う女は麻衣くらいだよ」

「へえ。じゃあ、格好いいはよく言われてるの?」

「まあ、それなりには」

 おどけた口調で副社長は言うと、ウェディングドレスを取り出した。

「これ、麻衣に似合いそう」

 私の体に当て、少し顔を傾ける。そして、これを着てと言われた。

「えっ、本当に着るんですか?」

「もちろん。ここに来た一番の目的だからね」

「仕事の資料でしょ」

「じゃあ、仕事ってことにしたら着てくれる?」

 どうしても着ないとダメみたいだった。ひとつため息をついて、副社長の手からウェディングドレスを受け取る。

「着ればいいんでしょ。その代わり明人さんもタキシードを着てください。私、ひとり着ても恥ずかしいんで」

「いいよ。じゃあ、俺のは麻衣が選んで」

 そう言って、副社長は私の肩に手を置いた。そのまま背中を押されるように、タキシードが並べられているほうへと連れていかれる。

 すると様子を見にきた佐藤さんが、そちらのドレスご試着しますかと聞いてきた。

「お願いします。タキシードを選ぶんで、そのあとに試着を」

「かしこまりました」

 私が持っていたウェディングドレスは、佐藤さんが笑顔で持っていってしまった。

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