副社長と恋のような恋を
「そうだったんですね」

 副社長と両親との関係を知っているから、なんと言えばいいかわからず無言になってしまった。

「そんな暗い顔しない。今、デート中だよ。彼女には笑顔でいてほしいな」

「はい」

「でも、なんで六次の隔たりの話なんてでてきたんだ?」

 そのとき自分が迂闊だったことに気がついた。この質問をすればこういう展開の話になるのは予測できたはず。

 平井さんにいい彼女ができたよかった、よろしくお願いしますと言われたとは言えない。自分からこんなことを言うなんて恥ずかしい。もし誤魔化しても、平井さんに聞かれたら結局ばれる。

「あの、明人さんのことをよろしくと言われたときに出てきたんです」

 素直にざっくり話してみた。すると、副社長が少し笑った。

「へえ、平井、そんなこと言ったんだ」

「はい。いいお友達ですよね」

「まあ、そうだね」と言って、副社長は笑った。

「もう昼の時間も過ぎたね。お腹すいたでしょ?」

 副社長は努めて明るい口調で話し始めた。少し重くなった空気を払拭するように。

「そうですね。今日は天気もいいし、テラスがあるようなところで食事をしませんか?」

「ええ、暑いから景色のいいレストランにしない?」
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