副社長と恋のような恋を
「しょうがないな。その代わりパスタとデザートが美味しいお店に連れてって」

 私はデートで滅多にこういう注文をしない。でも、こういうことを言うと副社長はものすごくいい笑顔になる。

「わかった。すごく美味しいパスタが食べられるお店に連れて行くよ」

 やっぱり副社長はすごくいい笑顔で言った。

 お昼を食べたあとは、夕方まで適当にドライブや買い物をして、自宅に送ってもらった。

 夜、ベッドでゴロゴロしていると、スマホが震えだした。

 それは副社長からのメールだった。そこには今日撮った写真が添付されていた。ツーショット写真と、ドレスとタキシードのみが映った写真も添付されている。

 二人並んだ写真を見つめる。

“近い将来、俺と別れるつもり?”

 急に副社長の言った言葉を思い出した。もし、このままの関係が続けばこんな未来があるのだろうか。

 次の写真を見る。それは私が台に乗って撮った、ドレスとタキシードのみのものだった。

 いつかは誰かが、こんなふうに副社長に隣に並ぶんだろうな。私じゃない誰かが並ぶ……。

「嫌だ、な……」

 思わず、手で口を覆った。

 なに言ってるの、私。それじゃ、まるで私が副社長のこと好きみたいじゃない。

「えっ、どうしよう?」

 そんなことを言っても、誰も答えてはくれない。画面に表示されているドレスとタキシードをただ見つめる。ベッドの上に座っているだけなのに心臓がバクバクしていた。
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