副社長と恋のような恋を
八冊の真実
 十二月に入り、慌ただしい時期となった。

 ark(アーク)のほうは、順調に進み、今は広報や営業のほうが主力で動いている。私の小説もウェブでの連載用は完成している。小説に連動するウェブサイトを小野さんが制作中だ。

 小野さんは忙しいおかげで、元恋人のことは吹っ切れたらしい。出来上がった原稿のデータを渡したあと、わざわざ感想を社内メールでくれた。

 その内容は“すべての話で号泣した。この小説のように、たくさんの愛を好きな人に伝えれる人間でありたいと思います”というものだった。

 小野さんは案外涙もろい人なのかもしれない、と思った。小説の受け取り方は読者の自由であるけれど、今回の小説に泣ける要素を入れたつもりはない。でも、涙を流すくらい彼の心に響いてくれたのなら、それは作家冥利に尽きるというものだ。

「麻衣、来週の日曜日予定空いてる?」

 リビングで映画を観ながらくつろいでいると、副社長が聞いてきた。スマホを見ながら、手帳を開き、それぞれを見比べている副社長。その手には私が誕生日プレゼントであげたボールペンが握られている。私は副社長に体を寄せた。

「空いてるよ。どうかした?」

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