副社長と恋のような恋を
 内容のイメージに近いほうが、あとがきで触れやすい。でも、レモンはレモンでちょっと捻った感じで書くのも手だと思う。

「ソーダ水はちょっと単行本とテイストが似ていますよね。レモンのほうがいいかもしれませんね」

 角田さんの意見に私も頷いた。結果、装丁はレモンのほうに決まった。まだ、サンプル段階なので、タイトルや作家名のフォントや大きさは変わってくる。

 会議を終え、エレベータのほうへ向かう途中だった。自動販売機が置かれている休憩エリアから、都築という声が聞こえた。

 別に自分が呼ばれたのではなく、会話の中で出てきたものだと思う。自分の小説の話でもしているのかと思い、柱の陰に隠れた。

「うまく会えてよかった」

「はい。あのホテルのバーに居なかったらどうしよかと思ってましたから」

 ふたりの男の人が会話をしている。ひとりは井上編集長。もうひとりは副社長だ。

「角田が意気込んでるよ。この恋愛小説は売れる。絶対に都築先生の転機になるって」

「そうですか。じゃあ、私も役に立ててよかったです」

「川島も楽しそうでなによりだ」

 それ以上、話しを聞くことはできなかった。ふたりの声を聞いて、何度も違う人じゃないかと疑った。でも、私が明人さんの声を聞き間違えるはずがない。
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