副社長と恋のような恋を
 会議室に入ると、副社長は大股でこっちへ近づいてくる。

「よかった。ちゃんと会社に来てて。昨日から連絡が取れなかったから、なにかあったのかと思ったよ」

「ごめんなさい。昨日、小説のことで煮詰まっちゃって。スマホの充電が切れたのも気づかなかったから」

 不思議なほど冷静に口から嘘が滑りでた。

「そうか。ならいいんだ。お昼ここで一緒に食べてく? デリバリーでなにか届けることもできるよ」

「それはまずいでしょ。誰かに見られても困るし」

「そうだよな」

「じゃあ、戻るね」

 会議室を出てから、急いでエレベータへ向かう。できるだけ早くここから離れたかった。

 なんで心配そうな顔なんてするのよ。なんで一緒にお昼を食べたいなんて言うのよ。心がジクジクと痛かった。

 それからは年末ということもあって、副社長と二人で会うことは減った。ただ、メールや電話にはちゃんと出るようにした。私があからさまに避けて、心配されるのが嫌だったからだ。

 あの立ち聞きをしてから、私の中でいろいろ整理した。そしてあることが気になり、私はお兄さんに電話をかけた。

「お久しぶりです」

『麻衣さん、久しぶり』

「突然、すみません。今大丈夫ですか?」
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