副社長と恋のような恋を
二役を使い分けることの大変さ
 本当に逃げたかった。逃げれば自分が都築麻衣だということを、無理矢理誤魔化す時間稼ぎができるかもしれないと思った。ただ、今日の会議の副社長を思い出して思った。無理だ、私がどうこうできる相手ではない。

 渋々、あのホテルのラウンジへ行き、適当に空いているソファに座って、副社長を待つことにした。

 私が着いてから二十分後に副社長は現れた。爽やかな笑顔なのに、ものを言わせぬ空気をまといながら現れた。

「近くに美味しいワインが飲めるお店があるんだ、行こう」と言って、このレストランに連れて来られた。

 有名なフランス料理店だったらどうしようと思ったが、思ったより普通のレストランだった。ただ少し高めのレストランであることには間違いない。

 外観はレンガ風の壁。外にはテラス席もあり、お昼に来たら座りたいなと思った。入り口はレンガと同系色の扉。中はアイボリーの壁紙。ランプシェードが丸や楕円、筒形などの形をしたライトがバランスよく配置されていて、関節照明の効果で温かみのある店内になっている。

 席に案内され、メニューを見ても、どれがいいのか見当つかない。私は外食をする場合は行き慣れた店にしか行かない。そのほうが外れの料理を頼まなくて済むからだ。
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