背徳の王太子と密やかな蜜月
泉に腰までつかったまま、諦めの滲んだ声でイザベルが話す。着替えを済ませたアロンソは、彼女の方を振り返りその頼りない声に耳を傾けた。
「一度だけ……ね。恋をしたことがある。でも、その人はすごく身分の高い人だから、私じゃ釣り合わないにもほどがあるのよね。ほら、住む世界が違うってやつ? それに、こんな下手したら牢屋にぶち込まれちゃうような生活を送ってるうちは、たぶん結婚なんて一生縁がないわ」
冗談めかして明るく話したつもりのイザベルだが、アロンソの目にはそうは映らなかった。強がる彼女がひどくいたいけな存在に見え、胸が締め付けられる。
「あと、今はね」
俯きがちに水面を見つめていたイザベルが顔を上げ、ライトブルーの瞳がアロンソをまっすぐに見つめた。それから照れくさそうにはにかんで、無邪気な言葉を投げかけた。
「アロンソがいてくれるから、それでいいの」
「イザベル……」
彼女が一度恋した相手は、身分の高い者だという。貴族かはたまた王族か……どちらにしろ、自分とは違う世界の人間だ。
それなのに彼女は、この封建社会の底辺にいるような野蛮な賊と一緒にいて、本当にいいのだろうか。
イザベルの言葉を素直に受け取れず、アロンソはそんなことを考えてしまう。