背徳の王太子と密やかな蜜月


彼女がどうしてこの森で生活するようになったのかは知らないが、やはり元は家柄のいいお嬢様か何かで、本当なら幸せな結婚も望める立場だったんじゃないのだろうか。

そこまで思い至って、哀れみに似た気持ちを抱くのと同時に、イザベルに対して過剰なまでの庇護欲(かごよく)が心の内側に滲みだすのを感じた。

自分と一緒にいるのが彼女にとってプラスなのかどうかはわからないが、せめてそばにいるうちは、この笑顔を守りたい。そして彼女を傷つけるものが現れたなら、誰であっても許したりしない――。


「なら……今は俺だけ見ていろ」


岸辺に跪いたアロンソが、イザベルの方へ手のひらを差し出す。彼女は静かに頷くと、水中でゆっくりと歩みを進め、その手をつかんで岸に上がった。そして、水浸しの衣服ごと、アロンソは彼女を強く抱きしめた。

お互いに“今は”という言葉を使ってしまうのは無意識ではあったが、心のどこかでこの生活が長くは続かないだろうという予感は、二人とも持っていた。

ただ、今は二人、傷を舐め合うようにして身を寄せ合うのが心地いい。


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