背徳の王太子と密やかな蜜月


「おい……!」


顔色を変えた男が彼女を抱き起こす。そこではじめてイザベルの顔を正面から見た彼は、その美貌に一瞬見惚れてしまった。

汚れた編み上げのシャツや、動きやすそうな短い革スカートから、山賊の女だとばかり思っていたが、泥で汚れた頬はよく見れば陶器のように白く、目鼻立ちのハッキリした高貴な顔立ちをしている。


(貴族の娘が森に迷い込んだか……?)


男はしばらく悩んだが、無用な殺生はしない主義である。敵でもない女を見殺しにするのは気が引けて、彼女の背中と膝裏に手を入れるとひょいと抱き上げ、焚火の方へと歩き出した。

その途中、ふと彼女の編み上げシャツの紐の隙間で揺れるふくよかな胸に目が行き、どきりとして目を逸らす。


(何ゆえこのような年ごろの娘がこんな場所に……)


不可解な状況とそれに心乱される自分にかすかな苛立ちを覚えつつも、彼はイザベルを介抱し、焚火の周りで食べごろに焼けた魚やキノコを分け与えてやるのだった。



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