背徳の王太子と密やかな蜜月


ぱちぱちと音を立てる火の粉をぼうっと眺めながら黙り込む男に対し、イザベルは自分が名乗ったのに反応がないことが不服で、口をとがらせる。


「ねえ、何か言ってよ。あなたの名前は?」

「俺は、アーロ……いや、アロンソ、だ」


過去と一緒に封印してある本当の名前は咄嗟に伏せ、男が名乗る。彼の事情など知る由もないイザベルはパッと破顔して人懐っこく言った。


「ありがとう、アロンソ! 命の恩人の名前だもの、一生忘れないわ」

「……そりゃどうも。で、お前はなんでこんな場所にいるんだ。家はどこだ」

「お前じゃなくてイザベル!」


呼び方ひとつで腹を立てるイザベルに、アロンソは“やっぱりまだ子どもじゃないか”と思いつつも、仕方なく訂正した。


「……イザベル。お前の家はどこだ。朝になったら送っていく。といっても、森の外まで案内するだけだが」


森の外に出て川を渡れば、いくつかの集落がある。そこからさらに北へ進めば、この一帯で最も巨大な王国、シルバラーナがある。

明るい時刻なら、森さえ出てしまえば危険はほとんどないし、シルバラーナの騎士たちも巡回している。彼女一人で歩かせても問題ないだろう。

そう考えたアロンソだったが、イザベルの答えは意外なものだった。


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