春はまだ青いか
「今日はご家族もいらしてるんですか? B市のご実家に帰省を?」

 翌日、土曜日の昼過ぎ。A市庁舎での打ち合わせを終え、何となく家族の話をすると、市長は意外そうな顔をした。B市はA市の隣にあり、電車で三十分ほどの距離だ。自分がA市に関わるようになったのは、市長が「このあたりの土地勘があるコンサルタント」として、B市出身の自分を指名したからだ。

「いえ、帰省ではなくて。週末をA市で一緒にと思って。僕があまり家にいないので、たまには家族サービスをと」

「ああ、なるほど。……もし差し支えなければ、香奈ちゃん、夜まで預かりましょうか? 去年の夏、明里を預かってもらったし。これからビーチグラスを拾いに行くので、香奈ちゃんも楽しいんじゃないかな」

 香奈と明里ちゃんは小学校三年生。去年の夏一緒に遊んで以来、文通を続けている仲だ。


 思いがけず、奈央と二人きりの時間ができた。

「あそこに行ってみたい。覚えてる? 付き合い始めた春に連れて行ってくれたところ。あのオーベルジュ、まだあるかしら」

 奈央の希望に応じ、レンタカーを借りた。
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