隣の席の魔法使い。
「結婚してください」
婚約指輪。
俺でも手が出せる様な安っぽい指輪だけれどそれが入った小さな箱を西島の目の前に差し出す。
「え、あ……っ」
あまりにも予想外の出来事だったのだろう。
西島は驚いたように目を見開き言葉を詰まらせた。
そして数秒後にはその目にいっぱい涙を浮かべていた。
「わ、私なんかでっ、いいん、ですかっ」
「西島だからいいんだよ」
「うぅ、あ、っ」
西島の言葉を肯定すれば嬉しそうに西島が泣き続ける。
こんなに俺を想ってくれる人がいるだなんて俺は幸せ者だな。
「し、幸せにするっ!」
「バカ!それ、俺のセリフだろ!」
泣くことを一生懸命我慢しながらの西島の返事に思わず笑いながらも俺は勢いよくツッコミを入れてしまった。
俺の短い人生で人に誇れることと言えば誰よりも自由であることだけだった。
それが西島に出会えて恋を知って、愛を知って、交際して、プロポーズをして婚約指輪を渡せた。
普通の人が送れる普通の人生なんて歩めないと思っていたのに。
俺は人並みに恋をして人並みにその人を愛してそしてプロポーズを成功させたのだ。
これを幸せと言わずになんと言うのだろう。