きらり、きらり、
「今度渡そうと思って、預かっておきました」

と、つられて差し出した私の手にお金を乗せた。

「あのとき、もしかして私のこと知ってました?」

「預かっておいた」ということは、返す宛を知っていたということになる。

「わかりますよ。ここの地区担当になって長いから何度も顔合わせてますし。配達員って記憶力が結構重要なんです」

ああ、だから!
知っていて、体育館の排水溝を教えてくれたのだ。
それが私の家の近くだなんて、彼にしてみれば至極当然のこと。

ふと視線を下げるとだいぶ薄汚れて、ゴミ捨て用にしているミュールが目に入った。
さっきまでの生活を考えると当然ながら、着ているものだって伸びきったTシャツワンピースにパンツもジャージ素材。
郵便物を受け取るときなんてたいていこんな格好だ。
きっとパジャマだったこともある。
目の前の彼がそれを気にした様子はないけれど、記憶力が重要というのだから覚えているに違いない。
私の方は配達員さんの顔さえ覚えてなかったのに。
人間扱いして来なかったなんて、失礼なことをしてしまった。

「言ってくれればよかったのに……」

不満が滲むのは八つ当たり。
恥ずかしさより申し訳なさが勝って、転じて腹立たしくなった。
彼はちゃんと覚えていて親切にしてくれたのに、私が覚えてないことさえ当然だという態度が気にくわない。
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